同業他社へ転職する際の秘密保持契約の注意点
転職する際、ほとんどの人が同業他社に転職すると思います。
自分のこれまでのキャリアを、今まで以上に発揮するために転職するのですから、当然ですね。
むしろ、これまでやってきたことと全く関係ない異業種他社に転職するような人は稀だと思いますし、求職者の年齢にもよりますが、業界(業種)未経験の人材を採用してくれる企業なんてそんなにないです。
そんな中疑問になってくる点が、今いる会社との間に入社前に締結した「秘密保持契約」の存在です。
秘密保持契約(NDA)とは、機密保持契約、守秘義務契約とも呼ばれますが、「顧客情報などの会社機密や個人情報など、会社で働く際に知りえた情報を、第三者に口外・開示・漏洩することを禁止する契約」のことで、入社前に、秘密保持契約書に同意した上で、採用されるという流れになります。
退職の際に、顧客情報など勝手に持ち出されては、会社にとっても大損害になるため、その秘密を保持する必要性は十分理解できますが、問題となるのが、秘密保持契約書によく盛り込まれている「競業避止義務」についての規定です。
競業避止義務のポイントは、「同業他社に転職されるのは、我が社の利益に反するので辞めてほしい」と同業他社への転職を制限している点です。
前述の通り、転職する際、ほとんどの人が同業他社に転職するため、同業他社への転職を制限されてしまっては、転職自体が難しくなります。
また、退職後の競業避止義務に違反した場合、「退職金の減額や不支給」「不法行為に基づく損害賠償」について定めている場合すらあります。
会社を辞める側からすれば、かなり理不尽な気がしますが、そもそもこのような契約に従う必要があるのでしょうか?
競業避止義務契約って100%守らなきゃいけないの?
秘密保持契約書の中に、同業他社への転職を制限する内容が盛り込まれている場合があります。
例えば、「向こう5年間同業他社への転職を禁ずる」といった内容ですが、基本的に転職先は同業他社なので、その内容を文面通り100%強いるのであれば、「労働者の職業選択の自由」を阻害する行為であり、転職を考えている人にとっては、断じて納得なんてできないですよね。
日本国の最高法規である日本国憲法も、第22条で「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」と職業選択の自由を保証しています。
「競業避止って職業選択の自由に抵触しないの?」
ってことが問題になってきます。
このような、労使双方の利害関係が対立するケースの落としどころとしては、「法律の解釈」や「過去の判例」そして「管轄の官公庁の見解」がよりどころとなってきます。
この点は当然お役所である「経済産業省」も注視していて、同省のホームページ内では
『退職後について競業避止義務を課すことについては、職業選択の自由を侵害し得ること等から、制限的に解されていることは事実』
『債権者の利益、債務者の不利益及び社会的利害に立って、制限期間、場所的職種的範囲、代償の有無を検討し、合理的範囲において有効』
であるとしています。
つまり、当サイト的にざっくり意訳すると、「会社側が不利益を被りたくない気持ちもわかるけど、当たり前だけど「同業他社への転職制限行為」は、退職者(他社への転職者)が「職業選択の自由」を過度に阻害されない範囲内にとどめておいてね。」ということです。
気を付けなければならないのは、研究開発職など、「知的財産権」や「独自の技術情報」が流出することで致命的ダメージを被ってしまう職業に就いている人でしょう。
このような会社は、ライバル会社の戦力となられることが気に入らないからと言ったレベルの理由だけで、従業員に転職制限行為を課しているわけではないからです。
会社によっても、秘密保持のレベルはまるで違ってくると思うので、同業他社への妥当な転職禁止期間が、1年なのか、5年なのか、で変わってくると思いますが、自分の解釈で競業禁止規定に抵触してしまい、会社側から損害賠償請求などされないためにも、在職中のうちに、転職する際の問題ないシナリオを作っておくことが大事になってくると思います。
例えば、先輩社員で転職した人のケースを参考にするのも参考になりますし、転職の際、転職エージェントに相談するのも良いでしょう。
転職エージェントの担当スタッフは、多くの転職事例を見てきてますので、あなたの転職に際し、具体的なアドバイスを提示してくれることが期待できます。
ただ、これまでITエンジニアとして数々の同業者転職してきた私の経験でいえば、これまで会社側から転職先を制限されたことも全くありませんし、そういった知り合いの話も聞いたことがないので、会社側から「同業他社への転職」を制限されて困っているという悩みは、それほど事例数としては多くないのかなとは思っています。
逆に、研究開発職など、他社に技術やノウハウが流出してしまうことが致命的になってしまう立場で働いている人は、転職する際、この秘密保持契約について自分の行動が当該契約に違反していないかどうか、真剣に考えた方が良いと思います。
今一度、業規則に退職後の競業行為の制限について定めがないかを確認してみてください。